月々の法話

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『坂の上の雲』


今年は、日露戦争が終結してちょうど百年になります。昨年、兵庫県を特派巡回中にある教区のご老僧より、「あなたは『坂の上の雲』を読んだことがあるかね?まだ、読んでいないなら読んでおいた方が良い」と言われました。文庫本で八巻ある司馬遼太郎作の長い小説です。秋山好古、真之兄弟の生い立ちから、日露戦争での活躍などが描かれているのですが、当時の世界情勢もよくわかる本ですがやっと先月読破しました。 これまで、日露戦争というと、日本がロシア帝国に勝った戦争という認識でしか無かったのですが、実際は、極東で南下政策を進めていた帝政ロシアを、国家の存亡を賭けて、何とか食い止めた戦争であったこと。国家財政の6年分を戦費に費やし、それを外国債でまかなうという綱渡り状態の中、国債を外国に買ってもらうためにも、戦果をあげていかなければならない大変な戦争だったということがわかります。そしてなにより、13,000人といわれた日清戦争の戦死者をはるかに上まわる90,000人といわれる信じられないほどの犠牲を出し、砲弾が足りなくても、さらに前進して、勝っていることを示さなければならないという悲惨な戦争でした。 乃木希典が指揮した旅順攻略戦は、そこだけで、六万人の死傷者(戦死者15,000人)を出し、191日に及ぶ長い攻防戦の末、やっと陥落させたものの、鬼神と評された乃木将軍自身もこの戦争で二人の御子息を失っております。あらためて戦争というのは勝った負けたではない、そこにいた人だけが分かる悲しくてつらい現実があることを感じました。 日露戦争は、戦前の軍国主義教育の中で、過大に評価され、軍国主義を煽ったということがあった一方、戦後の政治や報道の中では、正しく評価されていない側面もあります。やはり、史実を正しく認識することは、未来を築いていく上でとても大切なことだと思います。 すでに、太平洋戦争での敗戦から60年、日本では戦争というものの記憶が薄れつつあります。今日も、梅花講員さんで、満州で生まれ、戦後引き揚げてきた方に、満州事変当時の、ハルピンや奉天の話を聞くことができました。多くの犠牲の上に今の日本があることを、戦争で亡くなった方々の想い、戦争を生き抜いた方の苦労話を次の世代に伝えていく必要があると思います。
2005-02-01 | Posted in 月々の法話Comments Closed 

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