月々の法話

月々の法話

血脈に秘められたもの


 先月、修行中の甥が自坊へ一時戻り嗣法をした。七日間の加行の間、師匠から一人前の僧侶になるためにいろいろなことを学ぶ。法を伝えられるので伝法(でんぽう)ともいう。七日間の間に三物(さんもつ)といわれる血脈・大事・嗣書や秘伝書を写す。三物は道元禅師よりの伝来で、長さ2メートルちかい梅の花の紋様が散りばめられた絹の布に書く。今回、伝法に侍者として立ち会ったが、今年90歳になる甥のお祖父さんが伝法するとき、師匠が臨終間際だったので、兄弟子である私の祖父が伝法の手伝いをしたそうである。これもありがたいご縁と手伝いをさせていただいた。

 血脈には、お釈迦様から代々の祖師方の名前が書かれ、それが一本の朱線で結ばれている。この朱線が、達磨大師より六代目の慧能の所から、青原行思に始まり如浄禅師へと続く曹洞宗系の系譜と、南岳懐譲に始まり黄檗、臨済をへて栄西禅師、明全和尚に到る臨済宗系の系譜の二筋に分かれている。それが再び道元禅師のところで一本になり、自分の所まで行き、最期はお釈迦様へと戻ってつながるのだが、その二筋に分かれるところに道元禅師の思いが感じ取れる。
 ともに真の仏法を求めて中国に渡った道元禅師と明全和尚、かの国で真の師匠、如浄禅師に巡り合い、その法を継いだ道元禅師。志半ばで倒れ亡くなった明全和尚。その明全和尚の尊い求法の精神を道元禅師が受け止めたことのあらわれだ。

 檀信徒の葬儀や戒名をお付けする時も、やはり、お釈迦様からの系譜が記された血脈を授与しているが、それには直系84名の祖師名が記され、それとともに明全和尚へとつながるもう一つの系譜が書かれている。道元禅師が自らの血脈に込めた思いは、今も引き継がれている。
 伝法の式を終えた甥はまた修行道場へ戻っていったが、そのうしろ姿は一回り大きくたくましく見えた。

2006-04-01 | Posted in 月々の法話Comments Closed 

関連記事